はっぴいえんど/風街ろまん



仙台駅前のEBeanSでは定期的に年4回ほど、「イービーンズ大レコードCD市」というイベントが実施されている。
そこではタイトルの通り、全国のレコード店から在庫が寄せられ、掘り出しものや名盤が見つかることもある。
ブーム再燃とはいえ、レコードを取り扱う店舗には限りがあるため、僕がレコードを調達する数少ない機会となっている。
今回もレコードを買うつもりでその場に向かったのだが、CDを買ってしまった。はっぴぃえんどの「風街ろまん」だ。
この名盤とはレコードで会いたかった。
モノクロのメンバー4人の顔が並んだインパクトあるジャケットは、部屋のインテリアとして飾りたかったからだ。CDの大きさではちょっとドヤ感に欠ける。
今回たまたま「目」があってしまった「風街ろまん」は、1971年11月の作品を2023年にリマスタリングされたものらしい。
しかも、ボーナストラックが2曲追加され、スペシャルブックレット付き。
30分近く「風街ろまん」の周りをうろうろし、ようやく購入を決意した。
スペシャルブックレットは分厚く、読み応えのある内容だった。僕ははっぴぃえんどについての知識は持ち合わせていないが、中でも興味を惹かれた箇所を抜粋して紹介したい。

ブックレット

・メンバーは当時22歳。

・当時としては困難とされていたロックに日本語をのせることに成功した作品である。後年、日本を代表する作詞家となった松本隆によるところが大きい。歌詞の特徴としては、言葉と擬音を巧みに利用し、ロックのビートに合う響きの日本語を曲に当てている。結果として、本作、は日本のポップ・ミュージックのルーツとされることとなった。

・レコーディングには8チャンネルのマルチレコーダーが使用された。前作、通称「ゆでめん」では4トラックのレコーダーを使用。
1971年当時としては最先端の技術に、才能あふれるメンバーは様々な実験的試みを行い、アルバムのサウンドに反映された。
一方で、メンバー全員が揃わなくてもレコーディングできる要因となり、曲によっては不在のメンバーも発生し、すでにバンドとしてのまとまりを失いつつあった。ビートルズのホワイトアルバム的とも言われている。

・「風街ろまん」の「風街」とは、1964年の東京オリンピック開催に向けた高度経済成長の名の下にアスファルトで塗り込められてしまった懐かしき東京の街路の記憶を「風街」と表現している。収録曲である「風をあつめて」が作風として色濃く表れている。

収録曲・クレジット

01.抱きしめたい
 作詞:松本隆/作曲:大瀧詠一
Production-大瀧
Acoustic guitar,Vocal 1,Chorus-大瀧
Bass,Piano,Organ-細野
Electoric guitar,Chorus-鈴木
Drums,Chorus-松本
Mix by 近藤武蔵

02.空いろのくれよん
 作詞:松本隆/作曲:大瀧詠一
Production-大瀧
Acoustic guitar,Vocal 1,Chorus-大瀧
Bass,Piano-細野
Steel guitar-駒沢
Drums-松本
Mix by 近藤武蔵

03.風をあつめて
 作詞:松本隆/作曲:細野晴臣
Production-細野
Acoustic guitar,Bass,Organ,Vocals-細野
Drums-松本
Mix by 吉野金次

04.暗闇坂むささび変化
 作詞:松本隆/作曲:細野晴臣
Production-細野
Acoustic guitar,Bass,Vocal 1-細野
Flat Mandlin-宇野主人
Chorus-大瀧
Drums-松本
Mix by 吉野金次

05.はいからはくち
 作詞:松本隆/作曲:大瀧詠一
Production-大瀧
Electric guitar,Giro,Chime,Vocal,Chorus-大瀧
Bass,Clabes,Chorus-細野
Electric guitar,Cow-bell,Chorus-鈴木
Drums,Conga,Cow-bell-松本
Mix by 近藤

06.はいから・びゅーちふる
 作詞・作曲:多羅尾伴内
Production-多羅尾伴内
Den-den-taiko-多羅尾伴内
Cow-bell-細野
Taiko-松本
Siden guitar-大瀧
Slide guitar-ほしいも小僧
Chorus-はっぴぃえんど
Mix by 近藤、山崎

07.夏なんです
 作詞:松本隆/作曲:細野晴臣
Production-細野
Acoustic guitar,Bass,Vocal,Chorus-細野
Electric guitar-鈴木
Drums-松本
Mix by 吉野

08.花いちもんめ
 作詞:松本隆/作曲:鈴木茂
Production-鈴木、林立夫
Electric guitar,Vocals-鈴木
Bass,Piano,Organ-細野
Chorus-大瀧
Drums-松本
Mix by 吉野

09.あしたてんきになあれ
 作詞:松本隆/作曲:細野晴臣
Production-細野、鈴木
BVass,Piano,Smoky-style vocals-細野
Chorus-大瀧
Electric guitar-鈴木
Drums-松本
Mix by 吉野

10.颱風
 作詞・作曲:大瀧詠一
Production-多羅尾伴内
Vocal-大瀧
Wow guitar-鈴木
Mouth harp-シバ
Bass-細野
Drums-松本
Mix by 吉野

11.春らんまん
 作詞:松本隆/作曲:大瀧詠一
Production-大瀧
Acoustic guitar,Bass,Chorus-細野
Electric and Acoustic guitar-鈴木
Mouth harp-シバ
Drums-松本
Mix by 吉野

12.愛餓を
 作詞:松本隆/作曲:大瀧詠一
Production-多羅尾伴内
Acoustic guitar,Vocal-大瀧
Mix by 近藤

Bonus Tracks
13.はいからはくち(完パケTake1)
 作詞:松本隆/作曲:大瀧詠一

14.颱風(Full Size)
 作詞・作曲:大瀧詠一

聴いてみる

以下、アルバムを通して感じた感想を6つ挙げる。

作曲者がボーカルを担当するという制作体制
大瀧が作曲した曲は大瀧が、細野が作曲した曲は細野が、作曲者がボーカルを担当するスタイルとなっている。前作「ゆでめん」では、細野が作曲した曲を大瀧がボーカルを担当するということもあったようだが、作曲者が歌う方が意図した表現になるという判断だろう。一般的に、バンドは成熟期に入ると、分業化される傾向があるようで(ビートルズとかもそうだった気がする)、メンバーそれぞれの個性が際立ってきた時期なのかな、と思った。

情景描写重視の歌詞
歌詞を読んでみると、独特な漢字の使い方をしている。
 瞳→眸
 台風→颱風
 路地→路次
「路次」という言葉ひとつを取っても、現代で一般的に使われている「路地」とは意味が微妙に違うようだ。
 路次:行く道の途中。途次。道筋。
 路地:大通りなどから折れた、人家の間の狭い通路。
「風街」を文字で描写するために、漢字の置き方にはこだわったいたことが想像できる。

ロックを日本語で歌うことへの「答え」
歌詞についてもう一点。擬音がふんだんに使われていることだ。
本作は、当時の「日本語ロック論争(ロックを英語で歌う派と日本語で歌う派の論争)」に終止符を打ったと言われている。
「日本語でロックを歌うことは土台無理」と言われていた時代に作詞家・松本隆が向き合った答えなのだろう、と思う。

ベースが目立つサウンドサウンド面の特徴としては、細野晴臣のベースが強めに鳴っているのを感じた。付属のブックレットにも言及されている。専門的な内容で読んでも理解できなかったが、ベースを前に出すということに関しては意図的であったようだ。

洋楽に被れていないアレンジ
・和太鼓が使用されている楽曲がある(はいからはくち、はいから・びゅーちふる)。ロックに和太鼓というミスマッチを楽しむという意図があったかもしれないが、上記の歌詞や和楽器がロックにはまっており、この時代としては洋楽に全く被れていないロックに仕上がっているのが誇らしい。

プログレの影響?
一方で「颱風」という曲は、同じ時代に活躍していたピンク・フロイドやキングクリムゾンのような、プログレッシブロックの雰囲気を感じた。アウトロも長めで、曲が終わったかと思ったらまた始まったりするところなど、昨今の商業音楽のような、CMサイズにもTVサイズにも収まらない時間の使い方をしている。

以上、僕もであるが、松本隆・大瀧詠一・細野晴臣・鈴木茂のはっぴぃえんど以降の活躍は知っていて、その豪華メンバーが若い頃に組んでいたバンドとして逆算的に追いかけるという人がほとんどだと思うが、当時22歳とは思えない貫禄と、超越した才能と個性がぶつかり合った「奇跡」がパッケージされた名盤「風街ろまん」は必聴の価値あり。




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