大瀧詠一/A LONG VACATION


「A LONG VACATION」は、リリース後のチャートが2位でありながらも、その後収録曲が繰り返しCMやタイアップに使われ、40年以上もの長い間、リスナーに愛されている名盤である。

ジャケットは、もうこれを持っていれば音楽好きであることがわかるほど有名なデザイン。永井博によるデザインのジャケットは、夏のバカンスをイメージさせる。

1曲目の「君は天然色」の雰囲気からは夏の定番アルバムかと思いきやB面では一変、ゆったりとした曲調に変わり、「さらばシベリア鉄道」では真冬を思わせるサウンドと歌詞でエンディングを迎える。

発売日は1981年3月と、夏でも冬でもない時期のリリースとなった。その経緯には、当初、夏のリリースに向けて制作し始めたものの、作詞家の松本隆のスランプを待つ形で冬リリースに変更。その後も紆余曲折を経ての3月リリースとなったため、どちらにも偏らない季節感の曲が出来上がったという。

君は天然色

このアルバムの聴きどころはなんといっても「君は天然色」だろう。「君は天然色」は、これまで幾度となくCMで使われたり、数多くのアーティストにカバーされていることで有名な曲であり、誰でも一度は耳にしたことがあるのではないだろうか。

歌詞は明るい曲調とは裏腹に切ない。表面上な捉え方をすれば、自分の元を去っていった恋人の可愛らしい仕草が表情を思い出すような描写から、失恋ソングだろうと思いがちだが、この曲について調べてみると、作詞家の松本隆の亡くなった妹を想って書かれた歌詞だということらしい。「想い出はモノクローム 色を点けてくれ」という歌詞は、妹が亡くなった後に見えた視界が色を失ってしまったことから生まれた言葉だそうだ。

この曲の冒頭の音が気になった。
針を落としてから数秒の沈黙の後、ピアノとストリングスがA(ラ)の音を出している。その十数秒後にドラムスティックのカウントが鳴り、あのお馴染みのイントロが始まる。
その冒頭の雰囲気は、世に知られているイントロの明るさとはあまりにアンバランスな、暗く神妙な感じがする。なぜこの音が入ったのだろう。作り手の立場からすれば、意味のない音なんて入れるはずがない。

仙台市で毎年9月に行われる「定禅寺ストリートジャズフェスティバル」では、東日本大震災以後、演奏開始前、1分間、A(ラ)の音を奏でている。A(ラ)には鎮魂と復興を祈願する息が込められているのだという。

亡くなった妹のことを書いた詩と冒頭の音、A(ラ)。

そういうことか。
これは松本隆の妹に向けた追悼のA(ラ)なのかもしれない。

「君は天然色」は、失恋ソングではなく、追悼ソングだ。
その追悼ソングが明るいイントロとアレンジ部分だけが切り取られ、やがては夏を彩る名曲となった、ということになる。


やっぱり音楽はフルサイズで聴いてみないとわからないものだ。


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