2024年、ロック史上、ビートルズに匹敵すると言われるほどの伝説のロックバンド、オアシスの再始動と、世界ツアーが行われることが発表された。
でも、新規リリースがあるわけではなかった。しかも屈指の動員数を誇るロックバンドなのに世界でたったの数箇所、全41公演のみ。おまけにこの「大共有化時代」にライブビューイングもない。だから、全世界のほとんどのロックファンはこの音楽史上最大のイベントの恩恵を享受できていない。僕もその一人である。
そんな「ほとんどのロックファン」がライブの様子をキャッチする手段は、参加できた人のリポートをラジオで聞くことでしかなかった。なんだかまるで大正時代の情報量だ。
この映画は、そんな「ほとんどのロックファン」にとって、1年越しの渇きを癒す作品であるとともに、将来、ロック史に残る重要な映像資料になるだろう。
映画を観るにしたってそのハードルも高かった。上演期間はたったの二週間、宮城県ではイオンシネマ利府の一箇所のみ、時間帯は1日に1枠しかない。一体どこまで追わせ上手なんだろう。それでもわざわざ観にいく人間はいる。この僕のように。
映画館に行けると思った当日の席がすでに9割ぐらい埋まっていた。今週を逃したらもうチャンスはない。すかさずネットで予約。かろうじて取れた席はシアター2列目だった。近すぎる(映画のスクリーンは近すぎると見辛い)。
映画の大まかな構成は、2009年の解散の振り返りに始まり、再結成の経緯、兄弟の距離感が近くなっていく過程、開催地の各地の様子、ファンの声、途中でギャラガー兄弟のインタビューの音声が差し込まれているというものだ。
強く印象に残っているのが、再結成ライブに向けたリハーサルのシーンだ。曲の出だしやカウントの取り方などの生々しいやりとりが収録されている。これは貴重映像だ。
スタジオに機材を入れ、先にリハーサルを始めたのはノエルと他のメンバーだ。その場にリアムの姿はまだない。
リアムなしで当時を思い出しながら探り探りセッションを始めるメンバー。
セッションをしながら、「こんな感じだっけ?」というノエル。「お前の曲だろ」というツッコミが他のメンバーから入る。この辺の生々しさもよい。
リハーサルが始まって数日後、ようやくリアムが遅れて入る。
兄弟間で一言も会話がない。メンバーとリアム、メンバーとノエルでの会話はあった。でも男兄弟はこうなりがちだよなあと思った。僕も4歳上の兄がいるが、ほとんど連絡をとっていない。最後に会話したのはいつだったかも思い出せない。でも仲が悪いわけじゃない。他の家の男兄弟はどうなんだろう?
それにしても、リアムがスタジオに入っただけなのに、現場の空気が一瞬にして凍りつくような緊張感が走るのはなんなんだろうか。兄のノエルですら萎縮しているように見える。再結成が発表された当時、ファンの間でもまだ半信半疑の空気感が漂っていた。「本当にライブできるのか?」という心配とか「ギャラガー兄弟が喧嘩しなければツアーは予定通り行われるだろう」という観測もあったほどだ。「喧嘩が原因で中止」は、おそらく本人たちも避けたいリスクだっだんだろう。
リアムのリハーサルに対するスタンスは己のキャラクターにぶれなく、実に徹底している。自分が歌い終わるとアウトロが鳴り止むのも待たずに、演奏の途中でも帰る。当然ダメ出しや振り返りはない。
歳をとっているだけに気難しいおじさんに見えたのは僕だけだろうか。
おおかた想像はしていたけど、オアシス(ギャラガー兄弟)は、構成を担当するノエルに、抜群のセンスでパフォーマンスするリアム、という関係性がこの映画ではかなり明確に写っていた。日本でこういうお笑いコンビがいるな、と思った。ネタを書く方(じゃない方)がTVでの立ち振る舞いが上手い人気のある方に愚痴るラジオとか。
そんなリハーサルの状態なので、細かい詰めの作業まではできていないが故のピリピリした雰囲気が本番前に現れていた。ところが、本番になれば兄弟の距離感が一気に縮まる。リアムの方からノエルの手を取り大きく万歳した(映画のポスターの光景)。
リハーサルでは照れなのか。過去の経緯か何かが二人の間に壁を生んでいたようだが、その壁を一気に破壊したのが、会場の雰囲気と大観声だった。スタジアムの観衆の声に呼応するかのように、期待に応え、不安を払拭しようという動きはむしろリアムの方に見えた。最高に盛り上がる方をリアムが選択したおかげで会場は最高潮に盛り上がる。さすがはパフォーマーだ。ノエルが地味な作業に徹する一方で、全てを持って行ってしまう男だ。
このまま言葉によるコミュニケーションをせず、でも通じ合っている様子を写す映画なのかな、まあ男兄弟だもんな、と思いきや、映画の中盤頃には2ショットインタビューの様子が写り、あの緊張感はなんだったんだというぐらいに仲良く喋っている2人が写っている。
このような感じで、再結成からツアー終了までのギャラガー兄弟の距離感の変遷が楽しめる映画だった。
日本公演の様子がカットされていたのが少し残念だった。
日本での取り上げ方が足りなかったのか、それともオーディエンスの盛り上がりが映画映えしなかったのか、もしくは日本の国力の衰えか?という邪推すら頭をよぎった。
僕は2005年のアルバム「Don’t Believe the Truth」以降から追いかけ始めた「完全後発にわかオアシスファン」だが、解散から再結成の経緯がわかりやすくまとまっているので、オアシスへの熱量は人それぞれだが、その差に関わらず歴史を知ることができる映画だと思った。もちろん熱量の高いファンは、映像の間にそれぞれの思い出や、それぞれが知っているオアシスを重ねて補正していたことだろう。
そしてこの映画の鮮度は、公開された「今」だけにとどまらない。40年後、50年後に振り返った時に、重要なロック史の映像資料になることは間違いない。その意味でも、この映画の価値はまだまだ計り知れないと思っている。

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